スマホ119 社長の手記
社長ブログ視点と、本音と、物語。
修理の話より、その奥の話を。息子の割れたiPhoneを自分で直した日から、沖縄で店を続けてきた僕が、現場で考えたこと・好きなモノづくりのこと・うまくいかなかった日のことまで、飾らずに書き残していきます。
手を動かした分だけ、書ける。
▼ この記事を、ショート漫画にしました(タップで再生・音が出ます)
皆さまこんにちは!スマホ119の富村です^^)
本の第Ⅰ部を1章ずつ開いていく月。今日は第7章「戻れる」仕組みが、現場を育てるです。
この章には、入社2週間の新人が出てきます。本の中での名前はユウキ(仮名)。

声が、震えていた
画面交換の作業中に、基板のコネクタを傷つけてしまった。ユウキ(仮名)は作業台から離れて、僕のところまで来て、こう言いました。
「やらかしました」
声が震えていたのを、いまでも覚えています。入って2週間ですよ。まだ工具の名前を覚えている途中の子が、自分の失敗を隠さずに言いに来た。
普通は、ここで詰める上司がいます。なんでそうなったんだ、どこを見てたんだ、と。気持ちは分からなくもない。部品代も飛びますし、何よりお客さまからお預かりした端末ですから。

詰めても、コネクタは戻らない
でも、冷静に考えてみてください。
詰めたところで、傷ついたコネクタは元に戻りません。戻るものは何もないのに、失うものだけは確実にあります。
次にこの子が失敗したとき、言いに来なくなる。黙って組み直して、そのままお客さまにお渡ししてしまう。それがいちばん怖い。うちの商売でいちばん取り返しがつかないのは、部品の傷ではなく、報告が止まることのほうなんです。
だから僕は、こう考えるようになりました。
完璧な仕組みは、存在しない。だったら最初から、戻れるように作っておくしかない。

安心して転べる地面を、先に敷く
本の中では「安心して転べる地面」と書きました。
失敗しても取り返しがつく状態を、先に用意しておくということです。予備の部品を切らさない。作業の前に写真を残す。迷ったら手を止めていいと決めておく。手を動かす前に、戻り道のほうを先に引く。
甘やかしとは違いますよ。転ばせないようにするのではなく、転んでも立てるようにする。育つのは、後者だけです。
転ばせない現場は、一見きれいに見えます。ミスの数も少ない。でもそこで育っているのは、挑戦しない癖のほうだったりします。
ちなみにこの地面、放っておくと薄くなります。忙しくなると予備の部品を切らす。時間がないと写真を飛ばす。そして地面が薄くなっている日にかぎって、誰かが転ぶんですよね。だから点検するのは人ではなく、地面のほうです。

同じ言葉が、コードの中にも出てきた
ここからが、今日いちばん書きたかった話。
この数年、僕は自分でシステムを書くようになりました。会社の中で使う道具を、夜な夜な自分で作っています。
そうしたら、妙な癖がつきまして。
戻せない機能は、作らない。
削除ボタンを付けるなら、元に戻す道を必ず一緒に付ける。設定を書き換える処理を作るなら、書き換える前の状態をどこかに残しておく。新しいものを本番に出すときは、出す前に「まずいと分かったら、何分で元に戻せるか」を先に決めておく。
そこが決まっていない機能は、どれだけ便利そうでも出しません。
この世界には「ロールバック」という言葉があるそうです。出したものを、前の状態にまるごと巻き戻すこと。初めてこの言葉を知ったとき、僕がまず思ったのは「あ、これ、うちの作業台でやってるやつだ」でした。

翻訳が、いらなかった
驚いたのは、ここなんです。
現場の話とコードの話を、同じ言葉で説明できてしまった。
2週間目の新人が転んでも戻れる現場と、押したあとで戻せるボタン。片方は人間の話で、片方は機械の話です。分野もまるで違う。それなのに、設計するときに頭の中で考えていることが、一言一句そのままでした。
「壊れることを前提に、戻り道から先に引く」
本を書いていた時点では、ここまでピタッと重なるとは思っていませんでした。修理の現場で新人と向き合いながら身につけた考え方が、そっくりそのままコードの書き方になっていた。この歳になって、こんな発見があるとは(笑
逆に言うと、僕がコードを書けるようになったから現場が良くなったのではなくて、順番は完全に逆でした。現場で先に覚えたことを、あとから画面の中で使い回しているだけです。

あの夜、言いに来てくれたこと
いま振り返っても、あの夜いちばん価値があったのは、ユウキ(仮名)が黙らなかったことです。傷ついたコネクタより、そっちのほうがずっと大きかった。
言いに来られる現場かどうか。それを決めているのは本人の性格ではなくて、こちらが用意した地面のほうだと思っています。
お客さまにとっての「戻れる地面」も、ちゃんと用意しています。修理のあとに何かあったときのための保証内容がそれです。何かあっても戻せるから、安心して預けられる。考え方は現場とまったく同じでした。
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